重心始動の習得 ステップ3下肢操作

執筆者/トータルフィットネスサポート代表 齊藤 登

身体の効果的な使い方「重心始動」での下肢操作についてご紹介します。

1. 下肢の機能解剖

(1)下肢の関節に関与する筋

a.股関節に関与する23の筋
腸腰筋(大腰筋・腸骨筋)、大殿筋、中殿筋、小殿筋、大腿筋膜張筋、外旋六筋(梨状筋・上双子筋・内閉鎖筋・下双子筋・外閉鎖筋・大腿方形筋)、縫工筋、大腿直筋、恥骨筋、大内転筋、短内転筋、長内転筋、薄筋、ハムストリングス(大腿二頭筋長頭・大腿二頭筋短頭・半腱様筋・半膜様筋)

b.膝関節に関与する15の筋
大腿筋膜張筋、縫工筋、大腿四頭筋(大腿直筋・外側広筋・中間広筋・内側広筋)、薄筋、ハムストリングス(大腿二頭筋長頭・大腿二頭筋短頭・半腱様筋・半膜様筋)、腓腹筋(外側頭・内側頭)、足底筋、膝窩筋

c.足関節に関与する13の筋
前脛骨筋、長指伸筋、長母指伸筋、長腓骨筋、短腓骨筋、第三腓骨筋、腓腹筋(外側頭・内側頭)、ヒラメ筋、足底筋、後脛骨筋、長指屈筋、長母指屈筋

(2)下肢の各関節における動きと筋力

下肢における各関節の動き、関与する筋の数を比較してみると、股関節が関節の可動範囲、筋力ともに他の関節に比べ一番大きいことがわかります(表1、表2)。
下肢ではこの股関節を効果的に使いこなすことがポイントになります。

表1. 呼吸法とコアの働き、重心の位置
関節 動き 関与する筋の数
股関節 屈曲・伸展・内転・外転・内旋・外旋 23
膝関節 屈曲・伸展(膝が30゜以上屈曲すると下腿の内旋・外旋が可能) 15
足関節 背屈・底屈・内反・外反 13
表2. 下肢の各関節における関節の可動と筋力の比較
関節 関節の可動範囲 筋力
股関節
膝関節
足関節 小(梃子の作用により底屈力は大きい)

2. 始動部位と運動機能の関係

(1)始動部位と筋活動

下肢を動かす際、始動部位によって各関節における筋活動に違いが生じるため、総合的な筋力に差がでます。
総合的な筋力を大きくするには、股関節を主にして膝関節と足関節を補助的に使います(表3)。

表3. 始動部位による筋活動の違い
始動部位(関節) 股関節の筋活動 膝関節の筋活動 足関節の筋活動 総合筋力
股関節から動き始める 主に働く 補助的に働く 補助的に働く
膝関節から動き始める 補助的に働く 主に働く 補助的に働く
足関節から動き始める 補助的に働く 補助的に働く 主に働く

(2)神経インパルスの伝達速度

脳から筋に収縮指令を出した場合、伝達速度は約100~120m/秒になります。筋の収縮開始までの時間を考えた場合、脳から筋までの距離が近いほど速いことがわかります(表4)。
下肢の運動において、脳から一番遠い位置にある足先よりも、距離的に近い股関節から動かし始めたほうが速く動くことができます。
*インパルスの伝達速度は常に一定でなく体温や神経の太さによって変動します。

【用語解説】
インパルス:神経線維に流れる電気信号のことで、この電気信号によって筋肉を動かしたり、痛みを感じたりすることができます。

表4. 各関節までの神経インパルスの伝達時間 *伝達時間については速度120m/秒で身長175センチ(脳からの距離:股関節85cm、膝関節135cm、足関節170cm)で算出しました。
関節 伝達時間
股関節 0.00708秒
膝関節 0.01125秒
足関節 0.01417

(3)キネティックチェーン

キネティックチェーン(運動連鎖)とは、解剖学的には筋は別々に存在するが動きの中で互いに繋がりあって機能するということを意味します。
下肢を動かす場合、始動部位によってキネティックチェーンの働き方が異なります。また、安定性にも影響を与えるためスポーツでは特に重要になります(表5)。

表5. 始動部位の違いによるキネティックチェーンの働きと安定性
始動部位 キネティックチェーンの働き方 安定性
体幹(重心位置) 体幹→股関節→膝関節→足先(足裏) 体幹と下肢が連鎖しているので安定性がある(崩れにくい)
股関節 股関節→膝関節→足先(足裏) 股関節に力が入るが、上半身が崩れると不安定になる
足先 足先→膝関節→股関節 足先には力が入るが股関節の力が抜けやすいため不安定

以上のことから、下肢を動かす場合は股関節(体幹→股関節)から始動したほうが総合筋力、筋収縮までの時間、キネティックチェーンの働き方において他の関節よりも効果的といえます。

3. 歩行動作の改善

歩行動作は人間おいて主となる運動であらゆる動きのベースとなります。
スポーツパフォーマンスを向上させるためには、まず歩行動作をチェックして効果的な動きへと改善する必要があります。

(1)歩行動作での筋の働き

歩行動作の際、脚を前方に振りだすよりも脚を地面に対して垂直方向から後方に蹴りだした方が前方への推進力を効率的に得ることができます(表6)。これはスポーツ場面で走る場合も同様です。
傷害予防の観点からも、脚を斜め後ろ下方へ蹴り出すことで殿筋、上部ハムストリングス(大腿部後面)の筋活動が増えるため大腿四頭筋(大腿部前面)の疲労を抑えることができます。これにより、大腿四頭筋の慢性疲労によって起こるスポーツ傷害を予防、軽減することができます。
傷害予防のケアとして運動後のストレッチングやアイシングも必要ですが、まずは下肢の使い方をチェックし適切な動作へと改善することが大切になります。

表6. 筋の働きと推進力
下肢の働き 使われる主な筋群 前方推進力
脚を前方に振りだす(股関節屈曲) 腸腰筋、大腿直筋(大腿部前面) ない
脚を垂直方向から斜め後ろ下方に蹴りだす(股関節伸展) 殿筋~上部ハムストリングス(大腿部後面) ある

(2)大腿部内側筋群の働き

大腿部内側筋群とは、内転筋群を主とする骨盤と大腿骨に付着する筋を指します。大腿部内側筋群は、歩行動作や走行動作時に、補助的に働くため下肢の横揺れを抑える役目があります。
この筋群が働くことで脚の蹴り出し方向が安定するため、脚力を効率的に推進力へと転換できることが可能になります(図1, 図2)。

(3)内側ハムストリングス(半腱様筋、半膜様筋)について

ハムストリングスは大腿部の後面にある4つの筋の総称で、外側の大腿二頭筋(長頭、短頭)と内側の半腱様筋、半膜様筋からなる股関節の伸展と膝関節の屈曲に働く筋です。
通常、股関節を伸展させると股関節の外旋が伴うため、外側ハムストリングスが主に働きやすくなります。その結果、外側と内側のハムストリングスの筋バランスが崩れ、傷害のリスクが高まるため内側ハムストリングスを特に強化する必要があります。
内側ハムストリングスは、大腿部内側筋群を使うことで働きやすくなるため、普段の練習やトレーニングにおいて意識的に使うことが大切です。

4. ジャンプ動作の改善

ジャンプ動作では、短時間に垂直方向(地面)へ効率的に力を加えることが大切になります。

(1)パワーポジション

パワーポジションとは、「力の伝達がスムーズに行える姿勢」「ケガの可能性が少ない姿勢」を意味します。
特にジャンプ動作においては、着地時に大きな衝撃が身体にかかるため、最初にこの姿勢を習得する必要があります(図3)。

    <パワーポジションのチェックポイント>
  • つま先をわずかに外側に向ける
  • 膝が足先と同じ方向に向いている
  • 骨盤から背骨のラインがニュートラル(腰背部の自然な前腕を保持する)
  • 肩が膝の垂直線上にある(重心が身体の基底面上に位置するようにする)
  • 足裏全体にバランスよく体重をかける(フルフット)

(2)始動部位と力の方向の関係

地面に対して力を伝える場合、最も効率がいいのは垂直方向になります。
足関節始動に比べ股関節から始動して下腿部のライン(長軸方向)で地面を蹴ったほうが垂直方向へ力を加えることができます(図4,図5)。

(3)トリプルエクステンション

下肢の筋力を効率的に発揮し地面に伝えるためには、股関節、膝関節、足関節の3つの関節をタイミングよく爆発的に伸展させる必要があります(表7)。

表7. トリプルエクステンションでの各関節の伸展の順番
伸展する順番 伸展部位
1 股関節
2 膝関節 *股関節を伸展した直後に伸展する
3 足関節 *膝関節が伸展した後に底屈する

5. 動き出し動作の改善

股関節周囲の筋群をリラックスし、股関節伸筋群がストレッチされた(筋が伸びた)状態にすることにより動き出しを改善することができます。
よくスポーツの現場では「腰を落とす」といわれますが、内面的な身体の使い方が不適切だと逆にパフォーマンスが低下してしまうことがあるため注意が必要です。

(1)筋をリラックスさせる利点

筋をリラックスさせた状態から収縮させると、事前に筋を収縮させたときに比べ関節の運動速度が速くなります。これらの要因としては以下のことが考えられます。

  • 主働筋を収縮する際、事前に筋がリラックスしているため筋収縮時の動員率が増す。
  • 拮抗筋がリラックスしていることで共収縮が抑えられ、動き出しがスムーズになる。
  • 股関節に体重が乗り関節面が圧縮されるため、関節内の固有受容器が刺激され姿勢が安定する。

(2)股関節伸筋群をストレッチさせる利点

スポーツにおいて、股関節は最も大きな動力源です。特に動き出しでは、事前に股関節伸筋群が力を発揮できる状態にすることが大切になります。
筋をある程度ストレッチ(伸張)した状態にすると力-長さ関係により力が発揮しやすくなるため、パワーポジションは最適な姿勢といえます(表8)。

表8. パワーポジションにおける各関節での筋のストレッチ状態
関節部位 筋のストレッチ状態
股関節 大臀筋がストレッチされている
膝関節 大腿四頭筋がある程度ストレッチされている
足関節 腓腹筋がある程度ストレッチされている

(3)股関節周囲の筋群を緊張させた状態で腰を落とした場合の問題点

股関節周囲の筋群を緊張させて腰を落とした場合、筋の収縮開始時間が遅くなるため、静から動への素早い動きが難しくなります。また、末端の足先や体幹部などに無駄な力が入ってしまうため、身体が硬直し外部からの衝撃に対して崩れやすくなります。
筋の過緊張に伴い重心の位置が変化することで、メンタル面にも悪影響を及ぼす恐れもあります。
スポーツにおいて「腰を落とす」とは、股関節周囲の筋群を緊張させて腰を落とすのではなく股関節周辺の筋をリラックスさせた結果、腰が落ちた状態になることです。
外見上の形ではなく内面的な身体の使い方を習得することが、スポーツパフォーマンスの向上においては重要になります。

6. 下肢の効果的な使い方のまとめ

  • 下肢において一番筋力が強く関節の可動範囲が大きいのは股関節になります。
  • 下肢を動かす場合、股関節から動かし始めたほうが効果的です(股関節始動)。
  • キネティックチェーンを体幹から足先に働かせることで、体幹と下肢がつながり身体が安定します。
  • あらゆる動きのベースとなる歩行動作を改善することが、スポーツ動作の改善につながります。
  • 大腿四頭筋よりも殿筋~上部ハムストリングスを使ったほうが、前方推進力を得られます。
  • 大腿部内側筋群を動員させることによって下肢動作が安定し、効率よく力を発揮することができます。
  • 内側ハムストリングスの筋バランスを改善するためには、トレーニングや練習において意識的に使うことが必要になります。
  • ジャンプ動作ではパワーポジションの姿勢から、順序良く爆発的にトリプルエクステンションを行います。
  • 股関節周囲筋群をリラックスし、股関節伸筋群をストレッチした状態にすると動き出しが素早くなります。

7. 下肢のトレーニングについて

(1)トレーニングのポイント

① 股関節が関与するトレーニングを主として行う。
② 傷害予防のために膝関節や足関節の単関節トレーニングも実施するが必ず体幹、股関節、大腿部内側筋群を意識して行うようにする。
③ 最終的に股関節~足関節が関与する複合関節運動を行う。
下肢のトレーニングの注意点として、股関節が関与しない単関節運動ばかり行っていると、それが運動プログラムとして脳に記憶されてしまう場合があります。
このことによりスポーツ時に他の筋との共同的な筋力発揮が出来なくなり、パフォーマンスの低下や特定部位の筋疲労による傷害を引き起こす恐れがあるので注意が必要です。

(2)段階的な下肢のトレーニングの例

目的:ジャンプ力向上
流れ:各関節の運動→協調性→スポーツ動作

<基礎段階1>
順番 トレーニング種目 関与する関節
1 スクワット 股関節、膝関節、足関節
2 レッグカール 膝関節
3 レッグエクステンション 膝関節
4 カーフレイズ 足関節
<基礎段階2>
順番 トレーニング種目 関与する関節
1 コンビネーションスクワット 股関節、膝関節、足関節
<発展段階1>
順番 トレーニング種目 関与する関節
1 ボールはさみスクワット 股関節、膝関節、足関節
2 ボールはさみレッグカール 膝関節
3 ボールはさみレッグエクステンション 膝関節
4 ボールはさみカーフレイズ 足関節
<発展段階2>
順番 トレーニング種目 関与する関節
1 ボールはさみコンビネーションカーフレイズ 股関節、膝関節、足関節
2 ジャンピングスクワット 股関節、膝関節、足関節

(3)股関節強化のトレーニングの例

<一般的トレーニング>
順番 トレーニング種目 股関節の動き
1 ストレートレッグレイズ(SLR) 屈曲
2 ワンレッグヒップリフト 伸展
3 ヒップ・アブダクション 外転
4 ヒップ・アダクション 内転
5 股関節の内外旋 内旋、外旋
<専門的トレーニング>
順番 トレーニング種目 股関節の動き
1 PNFパターン(複合動作) 対角らせん

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