重心始動の習得 ステップ4上肢操作

執筆者/トータルフィットネスサポート代表 齊藤 登

身体の効果的な使い方「重心始動」での上肢操作についてご紹介します。

1. 上肢の機能解剖

(1)上肢の関節に関与する筋

a.肩関節に関与する19の筋
僧帽筋、広背筋、大円筋、大菱形筋、小菱形筋、肩甲挙筋、大胸筋、小胸筋、鎖骨下筋、前鋸筋、三角筋、ローテーター・カフ(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)、上腕二頭筋(長頭・短頭)、烏口腕筋、上腕三頭筋長頭
*ここでいう肩関節は解剖学的関節(肩甲上腕関節・肩鎖関節・胸鎖関節)と機能的関節(第2肩関節・肩甲胸郭関節)の複合関節のことを指します。

b.肘関節に関与する8の筋
上腕二頭筋(長頭・短頭)、上腕筋、上腕三頭筋(内側頭・外側頭・長頭)、肘筋、腕橈骨筋

c.橈尺関節に関与する2の筋
円回内筋、回外筋

d.手関節に関与する11の筋
浅指屈筋、深指屈筋、長母指屈筋、長掌筋、橈側手根屈筋、尺側手根屈筋、長橈側手根伸筋、短橈側手根伸筋、尺側手根伸筋、総指伸筋、示指伸筋

(2)上肢の各関節における動きと筋力

上肢における各関節の動きや関与する筋の数を比較してみると、関節の可動範囲、筋力ともに肩関節が一番大きいことがわかります(表1)。
上肢ではこの肩関節を効果的に使いこなすことがポイントになります。

表1. 呼吸法とコアの働き、重心の位置
関節 動き 関与する筋の数 関節の可動範囲 筋力
肩関節 屈曲・伸展・内転・外転・内旋・外旋
水平屈曲(水平内転)・水平伸展(水平外転)
19
肘関節 屈曲・伸展 8
橈尺関節 回内・回外 2
手関節 掌屈・背屈・橈屈・尺屈 11

2. 始動部位と運動機能の関係

(1)始動部位と筋活動

上肢を動かす際、始動部位によって各関節における筋活動に違いが生じるため、総合的な筋力に差がでます。
総合的な筋力を大きくするには、肩関節を主にして肘関節と手関節を補助的に使います(表2)。

表2. 始動部位による筋活動の違い
始動部位(関節) 肩関節の筋活動 肘関節の筋活動 手関節の筋活動 総合筋力
肩関節から動き始める 主に働く 補助的に働く 補助的に働く
肘関節から動き始める 補助的に働く 主に働く 補助的に働く
手関節から動き始める 補助的に働く 補助的に働く 主に働く

(2)神経インパルスの伝達速度

脳から筋に収縮指令を出した場合、伝達速度は約100~120m/秒になります。筋の収縮開始までの時間を考えた場合、脳から筋までの距離が近いほど速いことがわかります(表3)。
上肢の運動において、脳から一番遠い位置にある手先よりも、距離的に近い肩関節から動かし始めたほうが速く動くことができます。
*インパルスの伝達速度は常に一定でなく体温や神経の太さによって変動します。

【用語解説】
インパルス:神経線維に流れる電気信号のことで、この電気信号によって筋肉を動かしたり、痛みを感じたりすることができます。

表3. 各関節までの神経インパルスの伝達時間 *伝達時間については速度120m/秒で身長175センチで算出しました。
関節 伝達時間
肩関節 0.00167秒
肘関節 0.00375秒
手関節 0.00583

(3)キネティックチェーン

キネティックチェーン(運動連鎖)とは、解剖学的には筋は別々に存在するが動きの中で互いに繋がりあって機能するということを意味します。
上肢を動かす場合、始動部位によってキネティックチェーンの働き方が異なります。また、安定性にも影響を与えるためスポーツでは特に重要になります(表4)。

表4. 始動部位の違いによるキネティックチェーンの働きと安定性
始動部位 キネティックチェーンの働き方 安定性
体幹(重心位置) 体幹→肩関節→肘関節→手先 体幹と上肢が連鎖しているので安定性がある(崩れにくい)
肩関節 肩関節→肘関節→手先 肩関節に力が入るが、体幹が崩れると不安定になる
手先 手先→肘関節→肩関節 手先には力が入るが肩関節の力が抜けやすいため不安定

以上のことから、上肢を動かす場合は肩関節(体幹→肩関節)から始動したほうが総合筋力、筋収縮までの時間、キネティックチェーンの働き方において他の関節よりも効果的といえます。

3. 肩関節について

肩関節は解剖学的関節(肩甲上腕関節・肩鎖関節・胸鎖関節)と機能的関節(第2肩関節・肩甲胸郭関節)の5つの関節からなる複合関節です。
肩関節を効果的に動かすためには肩甲胸郭関節と胸鎖関節が特に重要になります。

(1)肩甲胸郭関節と筋バランス

肩甲胸郭関節は関節の構造を持たない関節で機能的関節(偽関節)と呼ばれています。図1を見ても分かるように、肩甲骨は胸郭の後方に浮いたような感じで位置していますが、実際には肩甲骨に付着する筋によってその位置が保たれています。
肩甲骨に付着する筋群のバランスが崩れると肩甲骨の動きが制限されてしまう場合があり、それらは上肢の機能低下を引き起こす要因となります。
日頃から日常生活の習慣(くせ)や偏った運動に注意しながら肩甲骨をバランスよく動かすことが大切です。

(2)肩甲骨の様々な動き

肩甲骨は胸郭に沿ってその上を滑るように動きます(図2)。
肩関節の運動ではこの肩甲骨を基点として動かすことによって、肩関節の動的可動域が広がり、肩甲上腕関節の負担も減らすことができます。

(3)胸鎖関節について

胸鎖関節は上肢と体幹(胸郭)を構造的に繋いでいる唯一の関節です。
上肢を効果的に使うためには胸鎖関節を基点として動かしたほうが、肩関節の動的可動域が広がり肩甲上腕関節の負担も減らすことができます(図3,図4)。

(4)動物と人の肩甲上腕関節の違い

動物は腕(前肢)で身体を支えなくてはならないため、肩関節が安定し力が発揮しやすい構造になっています(図5)。逆に人は進化の過程で四足歩行から二足歩行になったことで、腕で身体を支える必要がなくなったため動物に比べて肩関節が不安定で可動性が高い構造となっています(図6)。
したがって肩関節を動かす際、肩甲骨~上腕骨のアライメンに注意する必要があります。

(5)肩関節の筋のリラックスと各機能の関係

肩関節に関係する筋の緊張状態と身体機能には密接な関係があります。肩関節の筋をリラックスすることによって様々な効果が期待できます(表5)。

表5. 肩関節の筋の状態による各機能の比較
各機能 肩関節に力が入っている場合 肩関節がリラックスしている場合
関節の整合性 肩の位置が上がるため肩甲上腕関節の整合性が悪い 正常な位置にあるため関節の整合性がよい
動き出し 遅い(反応時間、立ち上がりスピード) 速い(反応時間、立ち上がりスピード)
力発揮 力を出しにくい 力を出しやすい
衝撃緩和 衝撃に対して弱い 衝撃に対して強い
呼吸 胸式呼吸になりやすい 腹式呼吸になりやすい
メンタル 過緊張、焦り 落ち着き、集中力

4. ローテーター・カフについて

ローテーター・カフは肩甲骨と上腕骨に付着する棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋の4つの筋からなる上腕骨の回旋運動に関与する筋群です(図7)。
特にスポーツにおいては、上肢を安定させるスタビライザーとして働くため肩にストレスがかかるオーバーヘッド動作などで機能させることが大切です。

(1)傷害予防のためのスポーツ動作改善

肩甲骨の動的可動性が低い状態で腕を振り回す動作を行うとローテーター・カフにストレスがかかるため傷害発生のリスクが高まります。
傷害を予防するためには、肩甲骨の動的可動域を改善して腕を肩甲骨と一体化させて動かすことが必要です(表6)。

表6. スイング動作時におけるローテーター・カフのストレス比較
上肢の使い方 ストレス部位
肩甲骨を動かさないで腕のみを振る ストレス(牽引力)がローテーター・カフにくる
肩甲骨始動で肩甲骨と上腕骨を一体化して振る ストレス(牽引力)が体幹の筋にくる

5. 上肢の効果的な使い方のまとめ

  • 上肢において一番筋力が強く関節の可動範囲が大きいのは肩関節になります。
  • 上肢を動かす場合、肩関節から動かし始めたほうが効果的です。
  • 肩甲骨周辺の筋バランスが崩れると機能低下を招くため注意する必要があります。
  • 肩関節は肩甲骨と胸鎖関節を基点にして動かすことで、動的可動域が広がり肩甲上腕関節の負担を減らすことができます。
  • 人の肩関節は不安定な構造のため肩甲骨と上腕骨のアライメントを適切に保ちながら動かすことが大切です。
  • 肩関節の筋をリラックスすることで、動き出しや力発揮などが行いやすくなります。
  • ローテーター・カフの傷害を予防するには、肩甲骨の動的可動域を改善して腕を肩甲骨と一体化させて動かすことが有効になります。

6. 上肢のトレーニングについて

(1)トレーニングのポイント

a.肩関節が関与するトレーニングを主として行います。

b.傷害予防を目的にした肘関節や手関節などの単関節トレーニングにおいても体幹~肩関節のキネティックチェーンを働かせた状態で行います。

c.最後に肩関節~手関節が関与する複合関節運動を行います(動作・神経系の入力は最後に行ったものが強調されます)。

上肢トレーニングの注意点として、肩関節が関与しない肘関節や手関節などの単関節運動ばかり行っていると運動プログラムとして脳に記憶されてしまう可能性があります。
スポーツ時に単関節の体の使い方をしてしまうと他の筋との共同的な筋力発揮が出来なくなりますので、パフォーマンスの低下や特定部位に筋疲労が蓄積し傷害を引き起こすリスクが高まりますので注意が必要です。

(2)段階的な上肢のトレーニングの例

目的:バスケットボールでのチェストパス動作の強化
流れ:各関節の運動→協調性→スポーツ動作
順番 トレーニング種目 関与する関節
1 ベンチプレス 肩関節、肘関節
2 腕立て伏せポジションでの肩甲骨の内外転 肩関節
3 ナロースタンスでの腕立て伏せ 肩関節、肘関節
4 ベンチプレス肢位でのリストカール(背屈から0゜まで) 手関節
5 ベンチプレス肢位(または立位でのプーリーマシン使用)でのコンビネーションプレス 肩関節、肘関節、手関節
6 メディシンボールでのチェストパス 肩関節、肘関節、手関節

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